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[開業20周年]
医局日誌
〜Doctor's column〜

Episode 17:言葉

入院患者さんには色々な人がいる。そんな時家族全員付き添いで入院してきた一人の老人がいた。といっても60才後半だが。
歯は殆ど無く、しゃべるたびに息がもれた。痩せ型でなで肩。そして小柄。舌癌だった。舌全摘、再建、全頸部郭清術が施行される予定となっていた。術後は気切(のどを切ってくだを入れ、息をする)になるためしばらくしゃべれない。

そうした患者さんのために文字盤が用意され、あらかじめよく使う言葉、「トイレに行きたい」とか「痛い」とか「のどがかわいた」などの文章も作られていた。その指導は主に看護師さんだ。問診とときもやや理解力に乏しいと思っていたが・・。「ちょっと先生、これじゃオペ後大変よ。」と看護師さんに言われる。「あっ、私が指導に行きますね。」文字板持って入室。家族全員神妙な顔。「あの~、手術後は声が出なくなってしまうので、今からその練習をしますね。ではまず始めに・・、痛いを指して下さい。」
患者「そんの言わんから。」私「・・。」「ではそうですねぇ、自分の名前でも指して下さい、名字から、どうぞ。」患者「いいって。」私「・・。」家族「・・。」・・!?もしや、私「ひらがな読めない?のかしら?」家族「・・・。」おお~っと、思いもよらなかった!本人「そんなの知らないよー。小学校退学したからなぁ。」まじで?そして部屋には絵が貼られた。

便器の絵、ご飯の絵、痛い顔の絵。看護師さんを呼びたい時のため、部屋のベットにはナースコールというボタンがある。と説明済みだったが・・。夜。ナースセンターの外で、娘さんとお母さんがなにやら大きく手を振ってもーアピールしている。えっ何それ?
看護師「どうされました?」娘「父ちゃんがのど渇いたって!」看護師「・・、そしたら次回からナースコール押して下さいね。」娘「・・、はい。」手術後。幼稚園のお教室のような部屋で、静かになにやら書き物をしている。ひらがな読めないのに?のぞく。おお~~っ。自分の名前をひらがなで書く練習をしているではないか!しかも絶対安静、気切で声でない、首まで包帯ぐるぐる巻き、点滴やら胃官チューブやら、排尿官やらで、くだだらけの中。ちょっとじんときた。みみずのような字だったが、よしとした。

-写真はイメージです-

このコラムについて

※2006年に掲載したドクターズコラムを再編集したものです。
※当時の表現を使用しているため、読みづらい部分があるかと思います。

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