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[開業20周年]
医局日誌
〜Doctor's column〜

Episode 12:忘れられない

なかなか難しいことに、末期癌は進行するにつれ痛みのコントロールができなくなり、モルヒネに頼ることが多くなる(治療用の)。その副作用の一つが幻覚、意識障害だ。
外来で元気だった一人の患者が入院して来た。末期だった。やがてベット上安静となった。痛い、痛いという患者に徐々にモルヒネの量が増えていく。意識が遠くなる。先生「はい、痰を吐きましょう。ごほん!ってできますか?」患者「ごほん」声のみ。先生「吐き出せますか?」患者「ごほん」またしても声のみ。

このままでは誤飲性肺炎、呼吸困難を起して死んでしまう。そして、意識の遠ざかりは、ましてきて・・。患者「ごほん、ごほん、ごほん、ごほん、ごほん、・・・。」どれくらいだっただろう。私達ドクター3人がつくなか、随分長く「ごほん」と言い続けていた。先生「嚥下はもう無理かな。」「去痰剤、増やしますか?」「・・うん。」静かになったところで退室した。ふと顔を見た。くちぱくで「ごほん」と言っている。なんて素直でなんて苦しい様なんだろう・・・。その夜、彼は幻覚に悩まされていたようだった。病棟カルテ看護婦記載欄をみる。

20時30分:キリンが入ってくると騒ぐ。像が来たと言ってくる。22時30分像が・・・。彼は動物が好きだったのか?先生「○○さん、」患者「ごほん」まいったな。見れない。また始まる。咳をして、と指示していないのに「ごほん」と言う。名前を呼んではいけないのか・・。すごく素直な方だった。家族からもすごく愛されている人だった。(一家の主だった)忘れられない患者になった。

-※イメージです-

このコラムについて

※2006年に掲載したドクターズコラムを再編集したものです。
※当時の表現を使用しているため、読みづらい部分があるかと思います。

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