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[開業20周年]
医局日誌
〜Doctor's column〜

Episode 10:複雑

入院患者さんが外出する場合は、ナースさんに場所、帰宅時間をあらかじめ報告する義務がある。アクシデントや事件がおきないようにするための決まりごとなのだが。
が、しかし脱走する患者さんも中には存在する。進行癌の方で脱走の常習犯だった人がいた。

独特の概念をお持もちの方で、自分は特別な立場だから(病状が重度である)他の人と同じことをしなくてもいい、という考えのもと、なんでも行動する人だった。
よってナースさんも手をやいていた。ドクターに対しても口の周りに巻くテープの長さや角度まで自分で決めてしまう人だった。よってよくほどけた。その度にその患者さんによく怒られた。

なんて人だ、と思ったが腹が立つほどではなかった。彼は確実に体力が落ちていっていたからだ。最後の頃は全く歩けなくなった。
それでも最初はベッド上でやっぱりテープの角度を指示していた。棒のような細い腕で。複雑だった。そんなに病状が重度になっても、誰も見舞いには来なかった。独身で両親はすでに他界していた。それでも夕方になると、家に帰りたいと言っていた。(もちろん無理だが)そして静かに他界した。遠い親戚という方達が引き取りに来た。病院の地下にある霊安室に向かった。担当グループのドクターもお留守番を残し、全員霊安室に向かった。一緒にお祈りするために。そのお留守番役が私だった。

地下といっても病室からはかなり離れていたので、先生方が戻ってくるのには時間がかかった。とそんな時、「緊急事態の電話です」とナースさんに呼ばれた。電話の相手は霊安室の管理課の人だった。内容は・・・、な、なんとご遺体を残し、遠い親戚達は消えてしまった、というのだ。びっくりするとともに、また複雑な気持ちになった。色々なことがあった病棟生活だった。

このコラムについて

※2006年に掲載したドクターズコラムを再編集したものです。
※当時の表現を使用しているため、読みづらい部分があるかと思います。

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