Episode 20:涙
研修医だったころ、上の先生の診療アシストに、留学生(タイ人)の先生と一緒についたことがる。彼女にとって、とても興味のある診療をしている、同じ医局の先生がいて、その先生の診療室に(開業もしていた)見学に行きたかったようだった。その旨を上の先生に伝えていた。
が、見学行できる時間がアシストする時間と少しかぶっていた。「それはだめだ。アシスト終わってから行きなさい。」そんな感じのことを言われていた。「・・・、はい。」残念そうに返事をしていた。
日本人の新人ドクターなら、最初からそんなお願いはしないだろう。なにせ、アシスト早退して見学なんて、失礼に当たるし。
その日の昼休みだった。一緒に食堂にいった。席についた彼女は大粒の涙を流していた。「きっと、先生同士が仲悪いんです。だから見学に行ってはいけないと言ったんです。」私「・・・!???」「全部休むのではない、1時間はやく早退するだけなのに。」私「・・・。」「私はこれで、日本にいる間、決してあの先生の診療を見る事ができない。」私「・・!!」初めて事の重大さを知った。たいていの留学生は、今ここにいる新人日本人ドクターの何倍もの熱き思いを胸に、日々通学している、仕事しているのだ。だから涙が止まらないほど悔しいのだ!
私は提案してみた。「どうだろう、遅刻して見学に行くのは。片付けは私がするから。」留学生「・・。」やっぱりね。私「例えば、電車に乗っていたら、人身事故にあった、とする。やっぱり遅刻する。でも見にいける。でも実際は事故じゃないから、もっと早くつくかもしれない!・・、と思うのはどうだろう。」「・・。そうですね。」日々同じ仕事をしている者ですらわからないギャップがある。彼女は数日後、診療が終わるやいなや、見学にいった。その後、目を輝かせてその日の出来事をしゃべりまくったのは言うまでもない。(全部日本語で!!)
-研修時代のこと-
このコラムについて
※2006年に掲載したドクターズコラムを再編集したものです。
※当時の表現を使用しているため、読みづらい部分があるかと思います。
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