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[開業20周年]
医局日誌
〜Doctor's column〜

Episode 18:いとおしい

ある時自分達のグループに、全前脳胞症の患者さんが入院してきた。前脳分割不全による大脳機能不全ため、知的障害、運動障害、てんかん、および重度であったため顔面中央部の低形成、さらに前脳胞に由来する間脳・終脳の低形成による、体温調節機能の低下をともなっていた。
彼は2才だった。お座りもはいはいもできない。鼻柱はなく、鼻腔も一つだった。上口唇に口唇裂を認めた。入院時は3月だったので、まだ少し寒かった。入院時体温を測る。32度?!人じゃない!あわてて電気毛布にくるめた。失敗だった。気づくと39度!すぐにぬがし、タオルケットに巻きなおす。彼には表情がなかった。ないように見えた。採血をすることになった。オーベンの先生が採血、自分は押さえの係りになった。

初めて表情を表した。泣いていた。顔中で。採血は難航していた。先生「血管がふれない。」額には大粒の汗。「脈を指に感じると思ったら、自分の指の脈だった。」彼はぽっちゃりしていた。普段動かないからか・・。その間中懸命に泣いていた。ふといとおしく見えた。なぜだろう・・。手術が施行された。教授による、鼻口唇形成術だった。全く高さの無かった鼻に高さがでた。鼻腔も広がった。唇も閉じた。かわいく見えた。表情はない。痛いはず、苦しいはずなのに・・。オペ後、グループのドクターが交代で当直した。静かな夜に私と彼。痙攣が起きたときの薬剤、体温計、誤飲防止のサクション、内服剤。どーか何も起きませんように・・、と祈りながらベットサイドに座っていた。じっと顔を見た。可愛い。顔中縫合糸でいっぱい。鼻にはガーゼがつまっている。涙が出てきた。その無表情の顔の中に、懸命に生きようとする力を感じた。そして・・、痙攣がおきた。たちまち表情が変わった。鬼のよう。座薬を入れる。おさまらなかったら、筋注で・・、とまった。

ふ~。またいつもの無表情に。朝、お母さんが子供を眺めながら「ぽちゃぽちゃしちゃって、運動不足なんです。」ニコニコ。幸せそうだった。これか。この気持ちが彼に伝わっているのか。かわいい。そしていとおしい。相変わらず彼の体温は32度から40度付近をいったりきたりしていた。それでも、生きようとしている。無表情で。愛おしい。

-写真はイメージです-

このコラムについて

※2006年に掲載したドクターズコラムを再編集したものです。
※当時の表現を使用しているため、読みづらい部分があるかと思います。

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